- 投稿日
- 2019年5月16日
- 更新日
産後うつ、マタニティーブルーも鉄不足
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マタニティーブルー、産後うつは大きな社会問題
マタニティーブルー、産後うつは大きい問題となっています。せっかく赤ちゃんを産んだ女性が産後うつになって、自殺にまで追い込まれるケースが多いためです。
赤ちゃんを道連れにして自殺してしまったり、また自殺に至らなくとも、赤ちゃんを虐待したり、殺してしまったりというケースも多く報道されています。
出生率が低下している我が国において、本当に残念なことであり、国、社会の対応が迫られているところです。
この、マタニティーブルーは鉄不足が原因である、という認識は少しずつ広まっています。
以前は、マタニティーブルーについての研究では心理社会的な原因が多いとされていました。
エジンバラ出生後うつ病尺度という調査票を用いてうつの度合いを調べている研究が多く発表されています(1-3)。国によっても異なりますが、産後うつの割合は10%〜20%と高い値が報告されています。
産後うつや虐待の原因(危険因子)としては、
経済的問題
夫の不在・不仲
予定外の妊娠
周囲のサポート不足
母親の妊娠中・妊娠前のうつの既往
子どもの性別(国によって異なる)
育児知識の欠如
義母との困難な関係
など
があげられていました。
産後うつと貧血の関係
ところが、2017年に、貧血と産後うつについての見解を発表したトルコで行われた研究が発表されました(4)。
妊娠末期に母親学級に出席した女性450人を貧血群(Hb11g/l未満)150名と非貧血群で比較した研究です。
貧血群では有意にうつの傾向が認められました。
この研究のインパクトはとても大きいものです。
この論文の後、日本でも、国立成育医療センターが、産後の女性の自殺が多いということを発表していました。
そちらについては、以前の記事に書いています。
そしてさらに、同じ国立成育医療センターのグループによる発表がありました。
2019年4月16日の毎日新聞に、
「産後うつ、貧血だとリスク6割増 気力低下が原因に」
という記事が載りました。
貧血があると、無い女性と比べて産後にうつを発症するリスクが6割も増えるという調査結果です。
以下、記事を要約します。
貧血になると全身の倦怠感や疲れが取れにくくなり、気力が低下するためにうつになるとみられます。
妊産婦死亡のうち、最も多い自殺の原因の一つがうつ病とされており、研究チームは「貧血治療で産後うつの発症を抑えられる可能性がある」と指摘しています。
この研究では、2011~13年にセンター内で出産した女性のうち、妊娠の中期と後期、出産後に血液の検査データがあり、産後1カ月時点でうつ病の有無を調べた記録が残る977人(平均年齢36歳)が対象として調査を行いました。
貧血だったのは、妊娠の中期で193人(19・8%)、後期で435人(44・5%)、産後1カ月で432人(44・2%)。また、産後にうつを発症したのは196人(20・1%)でした。
産後に貧血だった女性は、貧血がなかった女性と比べ1・63倍も産後にうつを発症するリスクが高かったのです。
一方、妊娠の中・後期では貧血と産後うつとの関係ははっきりしていません。
また、産後の貧血が重症である場合には、うつを発症するリスクは1・92倍、軽症でも1・61倍高く、貧血が進むほど産後うつのリスクが高まる傾向にあることが明らかになりました。
産後うつは社会的、精神的な要因が影響することも多いのですが、調査したセンターの小川浩平医師(産科)は
「客観的な指標となる血液検査でリスクを評価できる意義は大きい。軽い貧血でも放置しないことが重要だ」
と話しているとのことです。
(以上記事の要約)
気力がなくなるためにうつになるというのも一つの原因かもしれませんが、鉄分の不足により、神経伝達物質の不足が起こることが直接の原因であると考えます。
まさに、うつは貧血から起るということを証明した研究なのです。
妊娠と貧血
女性はそもそも貧血の人が多いのですが、貧血を治療せず、そのまま妊娠、出産を経験すると、重症の貧血状態となります。
産科では20年くらい前からは妊婦さんに太ってはいけないという栄養指導をするようになり、更に重症の人が増えたのではないかと感じています。もっとも最近は、低出生体重児は将来生活習慣病のリスクがあがるというエビデンスが出てきており、以前のように厳しい減量指導は行わなくなっているようです。
私も第一子の出産のときに体重が10キロ以上増えて主治医からものすごく叱られたことを覚えています。
真剣に、
「ダイエットしなくちゃ」
と思ったほどです。
幸い、周りにたくさん「食べろ、食べろ」と言って美味しい物を与えてくれる人がいたため、ダイエットは不成功に終わりこと無きを得ましたが、もしダイエットをしていたらどうなったかと思うと怖くなります。
女性はそもそも貧血である場合が多いのですが、妊娠中の母親は自分を犠牲にして胎児に鉄を与え続けるようです。
糖質制限を推奨している産科医の宗田哲男先生が衝撃的なデータを紹介なさっていました。
母親のフェリチンが20で、臍帯血のフェリチンが200だったというのです。
母親はまさに身を削って子どもを胎内で育むのです。
妊娠、出産ではフェリチンが相当量(50以上)減少すると言われています。
このままの状態で放置しておくと、産後に鉄不足でうつになるのは当然でしょう。
そもそも生理がある女性はほとんどが貧血です。
また、日本では鉄が小麦粉などの食品に添加されていないこと、肉類の摂取が少ないことから、欧米に比べると貧血の人が多いのが特徴です。
それが、さらに妊娠によって重度の鉄不足に陥ってしまうのです。
見逃される産後の貧血
産科では妊娠中、血液検査で貧血をチェックしますが、その項目にはフェリチンが含まれていません。
ヘモグロビンだけでフォローしていると重大な貧血の状態、いわゆる隠れ貧血を見逃してしまいます。
産後は産婦の健康診断がありますが、妊娠中のように詳しい検査は行われません。
妊娠中に鉄剤を処方されていた場合であっても、産後は中断されてしまうことがほとんどです。
また、だるい、疲れやすい、眠れないなどの体調不良があっても子供から手が離せないため自分のためには病院受診もできない、ということになります。
母乳保育をしていればさらに鉄不足が進んでしまうのですが、貧血に気づくことすら無く、治療を受けないでいる人がとても多いのです。
鉄不足によって精神的に落ち込み、うつ状態となります。これに身体の疲れ、眠れないということも追い打ちをかけます。
鉄さえ補充していれば自殺を防げたのにという例もたくさんあるでしょう。
マタニティーブルー、産後うつによる自殺を防ぐため、また更に子供への被害が及ぶのを防ぐためにはまず鉄の補給をしっかり行いましょう。
妊娠中・産後の鉄剤サプリメント摂取について
妊娠中に貧血の治療を受けることになった場合、タンパク質不足の妊婦の場合には、気持ち悪くて鉄剤が服用できないことも多いです。
鉄剤で一番出やすい副作用は消化器症状です。
つわりの時期と重なると、余計胃がむかむかして鉄剤がのめない人もたくさんいます。
そこであきらめてしまってひどい貧血のまま出産を迎える妊婦さんもいるのです。
そういうときには、ムカムカの副作用が出にくいヘム鉄やキレート鉄を飲めば良いのです。
産後の女性であれば、しばらくは血液検査をしなくても鉄剤のサプリをのんで、まず問題ありません。
身を削って赤ちゃんを産んだ後には、100%の産婦さんが鉄剤を必要としています。
また、職場復帰に際しては母乳保育をやめる人がほとんどです。
すると生理が始まります。
産後の貧血があるところで、さらに毎月生理で鉄を失います。
これを普通の食事で取り戻すのは不可能です。
ぜひ鉄剤を飲むようにしてください。
貧血の確認のために血液検査を行う場合には、貧血を見逃さないように、ヘモグロビンだけでなく、フェリチンを測ってもらうようにしてください。
見逃される産後うつと孤立する母親
赤ちゃんが生まれた後は幸せな時期と思われがちで、産後うつなどのリスクは十分に認知されていないのです。
赤ちゃんを育てているお母さんのまわりにいる方は、常にうつのリスクを頭に入れておいて下さい。
出産後、お母さんたちはみな幸せだというのは大間違いです。
身体もぼろぼろになり、女性ホルモンが急に減って身体の変化も大きいものです。
産後の母体に起こっている変化や育児の負担を軽く見ることはできません。
昔は多世帯の同居が当たり前でした。
赤ちゃんが産まれると、同居しているおばあちゃん、場合によってはひいおばあちゃんが面倒をみていました。
かわいいね、かわいいねと言って育ててもらえました。
子どもの具合が悪いときでもすぐに相談ができました。
自分の具合が悪くなれば、ちょっとみていてもらって、病院に行くこともできました。
今は核家族です。頼れる人は傍にいません。
昔の長屋のような住まいであれば、子どもが泣くと、隣の奥さんが顔を出して、
「どうしたの?」
と声をかけてくれたりしました。
今はそういう付き合いも無くなっています。
周囲から遮断されているような環境、たとえばタワーマンションの高層階に済んでいるようなケースでは母子が取り残されて孤立します。そのような密室の空間では母親のストレスは最高潮に達します。
孤立した子育てはより大きいストレスになります。
ストレスが極限まで達すると、かわいいはずの子どもにそのはけ口を求めてしまうことになるのです。
「子どもを産んだら母親なのだから、どんなに大変でもがんばって育児をするのが当たり前だ、それが母親として幸せなのだ」
という意見によって追いつめられ、母親は自分を責めてしまいます。
それが自殺を生み出しているのです。
孤立した母親がいないかどうか、社会が見守り、発見してサポートする必要性を強く感じています。
赤ちゃんは可愛いだけではない
赤ちゃんは可愛いですが、可愛いだけではありません。
本当に手がかかります。
夜中に泣き止まないと、途方に暮れます。
ミルクを上げても、おむつを変えても、だっこしてもだめ。
おぎゃあ、おぎゃあと泣かれると、こちらが泣きたくなります。
私はそういう時には、寝かせるのを諦めて、よくおんぶをして窓辺にたち、
「ねーんねねんね、お日様もねんね、お月様もねんね、お星様もねんね、小鳥さんもねんね、わんちゃんもねんね、猫ちゃんもねんね、みーんなねんね、○○ちゃん(子どもの名前)もねんね、ねーんねねんね」
という自作の歌を歌っていました。小鳥、ねずみ、にわとり、牛、豚、馬など、ねんねする人、物、動物を当てはめて行くと、延々とどこまでも歌い続けることができるのです。
真っ暗の夜空を見ながら、何回この歌を歌ったことでしょう。
子どもを寝かせようと焦ると、決して子どもは寝てくれません。
焦ると余計いらいらして辛くなります。
「仕方ない!今夜はそういう日だ」
と割り切ってとことん付き合おうと思わなければいけないのです。
それでも、そんなことが毎晩続くとぼろぼろになります。
そういうときは、赤ん坊をふとんに寝かせて傍に自分も寝て、背中とんとんしながら泣いても我慢。
しばらくすると2人とも疲れて寝てしまいます。
もちろん、赤ちゃんに熱があるような時には放置してはいけませんが。
昔一緒に働いていた看護師さんが、新米ママだった私に次のようなことを話してくれたことがあります。
あるとき、お子さんが火がついたように泣いて泣き止まなかったのだそうです。どうやっても泣き止まず朝を迎えて、ふっと赤ちゃんの指をみたら瘭疽(ひょうそ:指の先の化膿性の炎症)ができて腫れ上がっていたのだそうです。
赤ちゃんは言葉で痛いと言えませんから、泣くときには何かがある可能性があります。何をやってあげても泣き止まないときは身体の隅々まで観察しないといけないわよと。
よく観察して、何もなさそうであれば泣いていてもゆったりと構えてよいのだと思います。
”母親”になることと”母”になること 児童虐待
私は大学で20年間「児童虐待」について講義をしています。
人が健康に生きて行くために知っておかなければいけない大切な話だと思っているからです。
講義を始めたときにはそんなに虐待件数は多くありませんでした。ちょうど、虐待件数の統計データを取り始めたころでした。
その後、20年の間にどんどん虐待の件数は増え、毎年講義で紹介する”実際に起きた事件”は悲惨なものとなってきています。
国民皆が虐待に関心を持ち、何か徴候を見つけた場合にはすぐに手を差し伸べられるようにしておかなければいけないと願って話をしています。
驚いてしまうことですが、虐待者は、実の母が一番多いのです。
そして、子どもを殺してしまう最悪の虐待は子供の年齢が1歳未満で一番リスクが高くなっています。
まさに、産後うつの時期です。この殺人には母子心中も含まれています。
児童虐待の講義の最後には、必ず次の話をするようにしていました。
女性は子どもを産んだらすぐに“母親”にはなるかもしれませんが、“母”になるわけではなりません。
周囲からの祝福、サポートがあって初めて“母性”が育まれ、“母”になれるのです。
けれども、栄養療法を学んでから、母になるためのポイントは栄養だと思うようになりました。
出産後、”母親”が”母”になっていくためには、美味しい栄養たっぷりのご飯も必要です。
貧血では”母”になることはできません。
鉄が足りないと身体も疲れやすく、元気になれませんし、精神的にもいらいらして落ち込んでしまいます。
これでは”優しいお母さん”になることはできないのです。
昔は「産後の床上げ」までの期間があり、出産した後の女性は母乳をあげるだけで、あとは休んで過ごしていました。
産後、数週間で働き始めた私は
「今養生しておかないと、後でそのつけがまわって来るわよ」
と年配の方から幾度も言われたことがあります。
昔の人の知恵というのは素晴らしいと思います。
とはいっても、今は産後1ヶ月寝て過ごすなんて夢の又夢です。
里帰り出産や、おばあちゃんが手伝いに来てくれるということはあると思いますが、すぐに1人ですべてこなさなければいけない人が多いと思います。
赤ちゃんを抱えていると買い物も大変です。
自分できちんと料理をすることは出来ないでしょう。
栄養不足で貧血になり、うつ状態に陥るリスクが高いのです。
その最悪の結末が母子心中です。
鉄剤さえ飲んでいたら、防ぐことができたケースがたくさんあるはずです。
赤ちゃんの世話で大変なのに、食事まで作らなければと思うと気持ちが追い込まれてしまうでしょう。
ですから、出産後は、サプリメントを有効に活用して、鉄をはじめとするミネラル、ビタミンをしっかり摂るようにしましょう。
産後のサプリメント
出産後に摂りたいサプリメントをご紹介しておきます。
ビタミンB
Life Extension Complete B-Complex
ビタミンC
ナウフーズ 【2個セット】 ビタミンC1000 ローズヒップ タイムリリース 250粒
また、これらのビタミン、ミネラルを吸収・活用するためにはタンパク質不足があってはいけません。
プロテインも一緒に摂るようにしてください。
プロテイン:ホエイプロテイン ピュアアイソレート (乳糖が入っていないものです)
プロテインパウダーには人工甘味料が入っているものがほとんどですが、できれば甘味料の入っていないプレーンなものがよいと思います。
お勧めのは以下の通りです。ここでご紹介しているのは1Kgのものですが、できれば大容量のものを購入してご家族で栄養補充のために飲むようにして頂くと良いと思います。
ファイン・ラボ ホエイプロテインピュアアイソレート プレーン風味 1kg
ファインラボ 徳用ホエイ・ピュア・アイソレート 4.5kg[プロテイン]グリシン300g付き!
FIXIT プロテイン ホエイ プロテイン THINK SIMPLE 1kg WPI (プレーン)
どうしても甘みがないと飲めない場合には、タンパク質を摂ることのメリットを優先させてこちらがおすすめです。
ビーレジェンド ホエイプロテイン ペコちゃん ミルキー風味1kg
柑橘類がお好きな方はこちらもよいかと思います。
ビーレジェンド ホエイプロテイン くまモンバージョン 熊本みかん風味 1Kg 2袋セット
ビーレジェンド ベースボールプロテイン バニラ風味 1Kg
参考文献
(1) Buist AE et al. Postnatal mental health of women giving birth in Australia 2002-2004: findings from the beyondblue National Postnatal Depression Program. Aust N Z J Psychiatry. 2008 Jan;42(1):66-73.
(2) Mohammad KI et al. Prevalence and factors associated with the development of antenatal and postnatal depressionamong Jordanian women. Midwifery. 2011 Dec;27(6):e238-45. doi: 10.1016/j.midw.2010.10.008. Epub 2010 Dec 4.
(3) Milgrom J et al. Antenatal risk factors for postnatal depression: a large prospective study. J Affect Disord. 2008 May;108(1-2):147-57. Epub 2007 Dec 18.
(4) Yılmaz E et al. Relationship between anemia and depressive mood in the last trimester of pregnancy. J Matern Fetal Neonatal Med. 2017 Apr;30(8):977-982. doi: 10.1080/14767058.2016.1194389. Epub 2016 Jun 17.