宮川路子の水素栄養療法

主治医が教えてくれない水素・栄養療法の話   うつ、がん、アンチエイジング

ダイエット成功の秘訣「糖質制限と高脂肪食」 ”どれだけ食べるか”、から,”何を食べるか”へ

“摂取カロリー”ではなく“食事の質”を重視することが大切

 従来の肥満指導は、適切なカロリー摂取を重視していました。肥満の根本的な原因は、カロリー摂取過剰によると考えられてきたからです。今では、食品のラベルにも、レストランのメニューにもカロリーが記載されるようになってきました。適切なカロリー摂取(制限)と、運動が減量のコツであるとされてきたのです。また、脂肪も肥満の原因とされ、摂取量を制限することも必要だと言われています。

 ところが、健康的な体重管理のためには、カロリー(摂取カロリーと消費カロリーのバランス)よりも、“何を食べるかという食事の質”を重視するべきであろうと言われ始めています。食べすぎないことは重要ですが、それに加えて、“何を食べるべきか?”ということを考慮し、食品選択の基準としなければいけません。品質の高い、健康的な食品を選び、低品質のものを避けることが必要なのです。

 基本となるのは、低炭水化物・高脂肪食、そして低インスリンです。

 この流れの根拠となっているのは、食品の種類による“代謝の変化”についての知見です。何を食べるかによって、消費カロリーが変わり、より太りやすくなったりやせやすくなったりするということがわかってきたのです。

低炭水化物・高脂肪食はエネルギー消費を増加させ、やせやすいからだになる

 健康な女性と男性12万人以上を対象とした20年間に及ぶ研究(1)では、体重の増加はポテトチップス、じゃがいも、砂糖入り飲料、加工赤身・未加工赤身の摂取と強く関連していました。でんぷん、精製穀物、脂肪、そして糖分の多い加工食品の摂取は体重増加のリスクを高めるのです。逆に、減量に良い食品は、野菜、全粒穀物、果物、ナッツ、ヨーグルトでした。この研究では、カロリーだけを重視するのではなく、低品質の食品を減らし、高品質の食品を選択することが健康にとって重要だとしています。

 精製・加工された炭水化物を食べると、体内のインスリン濃度が上昇し、体重が増加します。ハーバード公衆衛生大学院の栄養学科Ludwig教授らの最近の研究(2)では、これらの不健康な炭水化物の摂取量を減らすことが、長期的な体重減少の維持に役立つということが報告されました。

Ludwig教授の研究の要旨  低炭水化物で代謝の変化が起きる

164名の肥満患者について、20週間のプログラムで食事の体重への影響を検討しました。5ヶ月後、低炭水化物・高脂肪食を摂った人は、高炭水化物・低脂肪の食事を摂った人よりも1日当たり消費カロリーが約250カロリー増えていました。また、炭水化物の摂取が上がると中性脂肪は増加し、HDLコレステロール(善玉コレステロール)は減少しました。

低炭水化物グループにおいて認められた約250kcalの消費エネルギーの増加は、3年間の食事療法で20ポンド(約9キロ)の体重減少を引き起こす可能性があるということです。インスリンレベルがより高い人においては、もっと高い効果(約400のKcalの増加)を認めました。

また、この代謝の変化については食事に対するホルモンの反応によって説明することができます。低炭水化物食を摂取している被験者では、グレリン(胃で分泌される体脂肪を増やし、代謝を落とすホルモン(3,4)の値が下がっていました。グレリンの抑制は低炭水化物食が代謝を高める原因の一つと考えられます。

さらに、レプチン(体のエネルギー貯蔵を知らせる脂肪細胞ホルモン)についても、低炭水化物食の摂取において値が低く、レプチン感受性の改善(5)が示唆されています。減量後にレプチン濃度が低下していると、体重がリバウンドするリスクが低いことがわかっています(6-8)から、やせやすく、太りにくい体質となったといえます。

炭水化物を減らすとやせる

 この研究では摂取する総カロリーに対する炭水化物の摂取量が減るほど、総エネルギー消費量は増えるという結果が出ましたが、食事の質が体重とは無関係にエネルギー消費に影響を及ぼし得ることはすでに今までにも報告されています(9,10)。低炭水化物食は減量維持中のエネルギー消費を増加させ、ダイエット効果を高めるのです。

2007年に発表された研究(11)では、低炭水化物から高炭水化物の摂取量の4つの減量食を比較しました。12ヵ月間の試験では、300人を超える太り過ぎの肥満および閉経前の女性が無作為にAtkins(超低炭水化物)、Zone(低炭水化物)、Learn(高炭水化物)、またはOrnish(炭水化物が非常に多い)食事に割り当てられました。超低炭水化物ブループの体重減少は他のグループに比べて大きく、代謝効果(コレステロール、体脂肪率、グルコースレベル、血圧など)の結果も良好でした。低炭水化物、高タンパク質、高脂肪食が減量の効果的である可能性が示されました。

今までの常識を覆すダイエットの知識  食べ過ぎても太らないが、カロリー制限をすると太る

 

インスリンに注目しましょう

とても矛盾しているようですが、太るのは、カロリー制限をするためです。確かに、太る過程では過食になりますが、これはカロリーを無理に減らそうとするために引き起こされることです。その仕組みの鍵は身体を守る恒常性の仕組みとインスリンにあります。

恒常性を保つ  身体を守る仕組み

人間の身体には恒常性を保つ(一定の状態を保つ)ために防護機能が備わっています。この仕組みのため、カロリー制限をすると、脳は、生きて行くために大切なエネルギー源が足りない→必要だからもっと食べなさい、という指令を出します。

つまり、お腹が空いた!という指令です。

指令が出されると空腹感が募ります。ここで、食べたい!という欲求が生まれます。

更に、体内のエネルギーを出来るだけ節約するために、代謝を下げます。今ある少ないエネルギーで出来るだけ長く生きられるように、体温を下げたり、動かさなくても良い臓器の働きを落としたりしてエネルギーを節約するのです。
すると、ますます痩せにくい体質へと変化するのです。

つまり、カロリー制限による食事療法では、やせにくい体質となってしまうのです。

ポイント

カロリー制限をすると、
空腹感による食べたい!という欲求との戦い
代謝が下がることによるやせにくい体質への変化

の2つによってやせることが困難になります。

肥満はエネルギーの過剰状態と考えられていますが、それはむしろ“飢餓状態”に近いものです。脂肪細胞があまりにも多くのカロリーを保存していると、脳は代謝について正しく機能せいず、脳は空腹であるという指令を出してしまいます。問題は、脂肪細胞に含まれるカロリーが多すぎることではなく、血流に含まれるカロリーが少なすぎることなので、摂取カロリーを減らしても減量はうまくいきません。

肥満のきっかけは、低脂肪、高炭水化物食です。それはインスリンの分泌を上げ、そして脂肪細胞が多くエネルギーを蓄えるようになります。インスリンこそが肥満の原因といえるかもしれません。

糖尿病の患者さんが痩せる理由はインスリンが減るから

この現象を糖尿病の患者さんについて考えるとよく理解することができるでしょう。1型糖尿病でも、2型糖尿病でも共通して言えることですが、糖尿病が進行すると膵臓の働きが落ちてインスリンの分泌が少なくなり、血糖値は非常に高くなります。このとき、“体重減少”が症状として現れます。
過食、肥満によって2型糖尿病になった患者さんが、ものすごく太っていたのに、あるときから急に痩せ始めるということはよくあります。食べているものは変わらないのに、体重がどんどん減るのは、病気の進行によって“インスリンレベルが下がる”からです。脂肪を蓄えることができなくなるのです。
そして、逆にインスリン注射を開始してその量が多すぎると体重が増加する場合も多々あります。

インスリンを低く抑えることができれば、体重は決して増えません。インスリンは脂肪細胞にカロリーを蓄える働きを持つからです。
また、糖尿病の治療のところで書きましたが、インスリンは身体を傷つける猛毒です。その意味でも、できるだけ抑えるようにするのが健康の秘訣です。

インスリンを下げる最も早い方法は、炭水化物を減らし、脂肪を増やすこと

脂肪は食物を美味しくし、消化を遅くし、そしてインスリンを下げ脂肪細胞へのカロリーの取り込みを防ぎ、空腹感を抑え減量が可能となります。

高脂肪食は、代謝を変える最速の方法

減量のためには、脂肪は必須となります。食事の炭水化物を脂肪で置き換えると、新陳代謝を急激に増加させます。逆に、砂糖、ジュース、ベーグル、白パン、パスタ、そして高度に加工されたシリアルなどの精製された炭水化物によって肥満が引き起こされています。これらの食品は、血糖と脂肪貯蔵を促進するホルモンであるインスリンを上昇させ、空腹感を増し、食欲を増進させます。糖質制限と高脂肪食で、代謝を上げて痩せやすいからだを作りましょう。

健康的な食事のポイント

①糖質制限(低炭水化物)
②高脂肪
高品質の食品:野菜や果物、全粒穀物、健康的な脂肪とタンパク質。できるだけ、加工されていないもの、未精製のもの。
低品質食品:加工食品、スナック菓子、高果糖シロップ入り飲料、精製穀物、精製砂糖、フライドポテトなどの揚げ物、トランス脂肪酸、飽和脂肪酸(これについては、健康影響について、かなり議論が割れています)など。

果物について

ダイエットをするときに果物を食べても良いかどうかというご質問が多くあります。

糖質の観点からいえば、甘い果物を食べ過ぎることはお勧めできません。私は果物ばかり食べていて、おそらくそのために糖尿病になってしまったと思われる患者さんを何人もみています。
果物に含まれる糖質は種類によってはかなり多いので注意が必要です。

けれども、果物には多くの健康効果があることも知られています。
たとえば、ビタミンAのところでご紹介していますが、みかんはがんをはじめ多くの病気を予防する効果があります。

また、ベリー類は血管の健康を保つ作用、脂質代謝改善作用、う歯の予防、糖尿病の予防効果などもあるのです。

ベリー類をパンと一緒に食べると食後の血糖値の上昇を抑えるためのインスリン量が低くなるということも報告されています(12)。
ベリーは多くのポリフェノールを含み、抗酸化作用も期待できます。

食べ過ぎずに、適量であればフルーツは健康に良いと考えています。

飽和脂肪酸の健康影響について(参考)

飽和脂肪酸については、健康影響についてはっきりとした結論は出ていません(13-15)。飽和脂肪にはさまざまな種類があり、それぞれが体にさまざまな影響を与えます。心血管疾患のリスクを上げるが、心血管疾患による死亡リスク、また全死亡のリスク、2型糖尿病、脳卒中とは関係がないという研究が報告されています。飽和脂肪酸は、積極的に推奨される健康食品ではないと思われます。

けれども、精製糖や、加工炭水化物を減らしてインスリンレベルが下がると、体内で飽和脂肪はより速く消化され身体への影響は少ないと考えられています。食事にはどうしても飽和脂肪酸が含まれますから、あまり神経質にならず、単価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸とのバランスをとることが大切だと考えています。

食品を選ぶ際に、オリーブオイル、ナッツ、アボカド、亜麻仁油などを積極的に摂取することがおすすめです。

参考文献

(1) Mozaffarian, D., et al., Changes in diet and lifestyle and long-term weight gain in women and men. N Engl J Med. 364(25):2392-404.2011

(2)Ebbeling CB et al.BMJ 363:k4583.2018 doi: 10.1136/bmj.k4583.
Effects of a low carbohydrate diet on energy expenditure during weight loss maintenance: randomized trial.
(3)Cummings DE, Foster-Schubert KE, Overduin J. Ghrelin and energy balance: focus on current controversies. Curr Drug Targets 2005;6:153-69. 10.2174/1389450053174569 [PubMed] [CrossRef] (4) Mihalache L, Gherasim A, Niţă O, et al. Effects of ghrelin in energy balance and body weight homeostasis. Hormones (Athens) 2016;15:186-96. 10.14310/horm.2002.1672 [PubMed] [CrossRef] (5) Ye Z, Liu G, Guo J, Su Z. Hypothalamic endoplasmic reticulum stress as a key mediator of obesity-induced leptin resistance. Obes Rev 2018;19:770-85. 10.1111/obr.12673 [PubMed] [CrossRef] (6) Crujeiras AB, Goyenechea E, Abete I, et al. Weight regain after a diet-induced loss is predicted by higher baseline leptin and lower ghrelin plasma levels. J Clin Endocrinol Metab 2010;95:5037-44. 10.1210/jc.2009-2566 [PubMed] [CrossRef] (7) Erez G, Tirosh A, Rudich A, et al. Phenotypic and genetic variation in leptin as determinants of weight regain. Int J Obes (Lond) 2011;35:785-92. 10.1038/ijo.2010.217 [PMC free article] [PubMed] [CrossRef] (8) Mavri A, Stegnar M, Sabovic M. Do baseline serum leptin levels predict weight regain after dieting in obese women? Diabetes Obes Metab 2001;3:293-6. 10.1046/j.1463-1326.2001.00134.x [PubMed] [CrossRef] (9) 50. Muller MJ, Geisler C, Heymsfield SB, et al. Recent advances in understanding body weight homeostasis in humans. F1000Res 2018;7:pii: F1000 Faculty Rev-1025. [PMC free article] [PubMed] (10) Walsh CO et al. Effects of diet composition on postprandial energy availability during weight loss maintenance. PLoS One 2013;8(3):e58172.
(11) Gardner, C.D., et al., Comparison of the Atkins, Zone, Ornish, and LEARN diets for change in weight and related risk factors among overweight premenopausal women: the A TO Z Weight Loss Study: a randomized trial. JAMA, 2007. 297(9): p. 969-77.
(12) Törrönen R et al. Berries reduce postprandial insulin responses to wheat and rye breads in healthy women. J Nutr. 2013 Apr;143(4):430-6. doi: 10.3945/jn.112.169771. Epub 2013 Jan 30.
(13) Siri-Tarino PW et al. Meta-analysis of prospective cohort studies evaluating the association of saturated fat with cardiovascular disease. Am J Clin Nutr. 91(3):535-46. 2010
(13) De Souza RJ et al. Intake of saturated and trans unsaturated fatty acids and risk of all cause mortality, cardiovascular disease, and type 2 diabetes: systematic review and meta-analysis of observational studies. BMJ. 11;351:h3978.2015
(14) Hooper L, Mann J. Observational studies are compatible with an association between saturated and trans fats and cardiovascular disease. Evid Based Med. 21(1)37. 2016