宮川路子の水素栄養療法

主治医が教えてくれない水素・栄養療法の話   うつ、がん、アンチエイジング

細胞におけるエネルギー代謝(ATP回路) 健康の基本はミトコンドリアから

ここでは、栄養療法の基礎となる「エネルギー代謝」についてのお話をします。少し専門的になりますが、健康のためにとても大切な話ですので、できるだけわかりやすくご説明したいと思います。

大切なことは、細胞、ミトコンドリアの中でブドウ糖、脂肪、タンパク質から生きて行くためのエネルギーが作り出されているということ、そしてそれをスムーズに行うためにビタミンやミネラルが必要だということです。

エネルギーが適切に供給されないと、細胞は元気に活動することができません。したがって、不調や病気が引き起こされてしまうのです。

エネルギーを作り出すミトコンドリア

私たちの身体は60兆個の細胞から成り立っています。その一つ一つの細胞の中にエネルギーを作り出すミトコンドリアが存在しています。これは、細胞の細胞質にある細胞内小器官です。
ミトコンドリアは特に代謝が活発な筋肉、脳、肝臓などの細胞に多く分布しています。一つの細胞に数百から数千ものミトコンドリアがあり、体重の10%を占めるほどです。ミトコンドリアはエネルギー工場と呼ばれています。
細胞の中で生命活動に必要なエネルギーを作り出しているのです。

ミトコンドリアの構造

ミトコンドリアは二重の膜構造で構成されています。内膜は“ひだ”がたくさんあって、内側に入り込んでいます。これをクリステと言います。この内膜にATPの合成、電子伝達系に関わる酵素が乗っています。内膜の内側はマトリックスです。
マトリックスには、TCA回路に関わる酵素やミトコンドリアのDNAがあります。

ミトコンドリアの働き

ミトコンドリアの中では、生命のエネルギー通貨と呼ばれるATP(アデノシン三リン酸、Adenosine Triphosphate)を産生しています。アデノシンにリン酸(P)が3つついているもので、エネルギーを蓄えて供給する役割を果たしています。ATPがリン酸を失うときにエネルギーが発生するのです。
またミトコンドリアは細胞の自死(アポトーシス)においても重要な役割を担っていると言われており、生命にとって重要な役割を果たしています。

エネルギー ATPの産生のための3つの経路

エネルギーの原料は、食べ物から得られるブドウ糖(グルコース)、脂肪(脂肪酸)、タンパク質(アミノ酸)です。これらを食事として摂取した後に、3つの経路で、ATPに一度変換して、そのATPからエネルギーを得るのです。
ここでは、理解のためにブドウ糖を原料として説明致します。

① 解糖系 (酸素無しの、嫌気的反応)

細胞質で行われます。酸素のない状態で反応が起りますので、嫌気的解糖系と呼ばれています。グルコース1分子からは、ATP2分子ができます。

解糖系の反応式

C6H12O6+2NAD+ → 2C3H4O3+2NADH+2H++2ATP

C6H12O6(ブドウ糖)1分子から、2個のC3H4O3(ピルビン酸)と2個のATPが作られます。

この反応の後、
酸素がある場合には、ピルビン酸がアセチルCoAとなって、次のATP回路に進みます。
酸素がない場合には、乳酸となります。逆に、乳酸は酸素があると、アセチルCoAになり、ATP回路に入ってエネルギーを産生します。

ミトコンドリアを持たない赤血球や、酸素不足のとき(激しい運動時など)には、解糖系しかATPを作ることができず、乳酸が産生されます。乳酸は疲労物質として知られています。ただし、乳酸については、最近疲労を逆に防ぐ性質もあるということがわかってきており、一概に疲労物質とは言えない可能性もあります(1)。

② ATP回路(クエン酸回路、トリカルボン酸回路、クレブス回路)

ミトコンドリア内部のマトリックスという場所で回るのがATP回路です。クエン酸回路、クレブス回路など、いろいろな名前がついています。ここで、エネルギーの産生が行われます。
酸素が豊富なときにはこちらの回路が優先的に使われます。

グルコースの解糖や脂肪酸のβ酸化によって得られるピルビン酸から生成するアセチルCoAと、アミノ酸であるグルタミンがαケトグルタル酸、アスパラギン酸がオキサロ酢酸となってこの回路に入り、ATPを産生します。

エネルギー産生とともに、アセチルCoAのアセチル基を酸化して二酸化炭素(CO2)2分子に変換し、水素を還元型の補酵素の形(NADH2,FADH2)で補足し、アミノ酸代謝、糖代謝などの他の経路の仲介を行っています。

ATP回路の反応式(ピルビン酸)

2C3H4O3+6H2O+8NAD++2FAD → 6CO2+8(NADH+H+)+2FADH2+2ATP

グルコース1分子から得られたピルビン酸(C3H4O3)2分子から2個のATPが作られ、NADH+H+やFADH2というエネルギー物質が作られます。これは電子伝達系に運ばれて、電子とH+を渡し、多くのATPを作ります。

③ 電子伝達系

クエン酸回路で出来たNADH+H+やFADH2と酸素で、28個のATPを作り出します。そのときに、水(H2O)もできます。

電子伝達系の反応式 

10NADH+10H++2FADH2+6O2 → 10NAD++2FAD+12H2O+28ATP

解糖系、TCA回路、電子伝達系、の3経路でで合わせてブドウ糖1分子から、32個のATPが産生されます。なお、このATPの個数については、計算の仕方によって、いくつか違いが出ていますが、専門的過ぎますので、ここではあまり気にしないでください。

脂肪を原料とした場合のエネルギー産生量 β酸化

1分子の脂肪酸を材料にATPを作った場合を見てみると、脂肪酸の種類にもよりますが、グルコースの場合と比べてよほど多くのATPを作ることができます。脂肪酸がβ酸化を何回受けて、いくつのアセチルCoAを作り出すかによって、ATPの数も変わってきます。ほとんどの脂肪酸はグルコースの3倍以上のATPを作り出すことができます。

たとえば、パルミチン散C16H32O2)では、

C16H32O2+23O2 → 16CO2+16H2O+130ATP

130個もATPが作られます。これも、反応式の解釈によって、若干違う数字になります。

ブドウ糖の場合には、解糖系からスタートしなければいけませんが、脂肪酸の場合、直接クエン酸回路に入って、ATPをつくることができますし、得られるエネルギー量は多いのです。脂肪がいかに優れたエネルギー源がおわかり頂けると思います。

血糖値が高い場合には優先的にブドウ糖からATPが作られます。摂取した脂肪や、体に蓄えられている脂肪(中性脂肪)をATPの材料とするためには、血液中の糖質を減らさなければいけません。ですから、糖質制限が必要となります。
ダイエットのためには、糖質の制限は必須となりますが、優秀なエネルギー源である脂肪やタンパク質は減らす必要はないのです。

ATP回路をスムーズにまわすために必要な栄養素

クエン酸回路と電子伝達系の反応を助ける補酵素には、
ビタミンB群(ビタミンB1,ビタミンB2、ナイアシン、パントテン酸、ビタミンB6、B12)
ビタミンC

亜鉛
マグネシウム

があります。

これらが不足すると、エネルギーを作り出すことができなくなります。しっかりと補いましょう。

これ以外にも、生体膜の透過性を高めて物質の移動をスムーズにするためにはビタミンEも必要です。これらをしっかりと摂るようにしてください。
体調不良、病気の方は、まずはエネルギー不足の解消を目指して下さい。
具合が悪いときに、食事だけからでは摂取量が足りないことが多いので、ぜひサプリメントを摂るようにしましょう。

エネルギー産生を高めるためのサプリメント

糖質を食べ過ぎるとその処理のためにこれらのビタミン、ミネラルが不足します。すると、これらを必要としている体内の他の働きが悪くなります。神経伝達物質の不足も糖質過多によって引き起こされます。つまり、うつ病や統合失調症などの精神疾患になるリスクが上がってしまうのです。

エネルギー産生のための栄養療法

プロテイン  体重1Kgあたり1〜2g、朝、昼、夜に分けて。
鉄      36㎎、朝、夜
ビタミンC   1回1g、1日6回〜10回
ビタミンB群(ビタミンB1、B2、B3、B5、B6、B12) 朝昼夜
ビタミンE   400IU、朝夜
亜鉛      3日に1回
マグネシウム  3日に1回

ビタミンD   朝夜
ビタミンA   朝夜

ミトコンドリアを元気にしましょう! すべての病気はミトコンドリアの不足から

ミトコンドリア研究の第一人者で、水素研究でも有名な太田成男先生は、
すべての病気は「ミトコンドリアが足りなくなった状態」
だとおっしゃっています。
身体の悪い部分を治すにはエネルギーが必要で、ミトコンドリアが充分にあれば、エネルギーで病気を治すことができますが、エネルギー不足の状態では病気になってしまいます。健康でいるいためにはミトコンドリアを活性化して、数を増やすことが重要になります。サプリメントを摂る以外に推奨されているミトコンドリアを元気にする方法をご紹介します。

ミトコンドリアを増やす方法

運動によりエネルギーを消費する(強めの運動)
寒さを感じさせる
カロリー制限(週1回、1食抜く)

細胞にエネルギー不足を認識させると、細胞がミトコンドリアを増やすのだそうです。短期間でもミトコンドリアは増えますし、鍛えるほど増えて活性化されるといいます。
カロリー制限は、アンチエイジングにとっても重要です!これについてはまた改めて。

 コラム    ミトコンドリア・イブ伝説は間違っていた?

ミトコンドリアは父親からも継承される可能性があるという研究がつい最近発表されました!(2)

今まで、ミトコンドリアは母親からのみ受け継がれると言われてきました。ミトコンドリアによって運動能力が左右されるため、運動神経は母親からと言われたりするわけです。
「ミトコンドリア・イブ」という仮説は、ミトコンドリアの遺伝子をたどると、人類の共通の女系祖先(ミトコンドリア・イブ)につながっているというものです。

父親のミトコンドリアの遺伝子は受精卵の中でオートファジーにより分解されてなくなり、母親の遺伝子だけが継承されるというのが今までの定説でした。

ところが今回、ある3つの家系において数世代にわたり父親由来のミトコンドリアのDNAが発見されたのです。この発見により、条件によっては父親からも継承される可能性が示唆されましたので、ミトコンドリア・イブ伝説は間違っていたということになるかもしれません。

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参考文献
(1) https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspfsm/63/1/63_32/_pdf
八田秀雄 運動時の筋エネルギー代謝から考える疲労研究の現状(東京大学大学院総合文化研究科身体運動科学)体力科学 63(1):32 2014
(2) Luo S. Biparental Inheritance of Mitochondrial DNA in Humans. PNAS. 2018 Nov 26. pii: 201810946. doi: 10.1073/pnas.1810946115.