宮川路子の水素栄養療法

主治医が教えてくれない水素・栄養療法の話   うつ、がん、アンチエイジング

腸内細菌と健康


腸内細菌で健康度を高める 

すべての健康は腸内細菌からということは最近盛んにあちこちで言われるようになりました。腸には免疫をつかさどる細胞が多く分布しています。体内の免疫細胞の約7割が腸に集結していると言われているのです。外界から直接異物が侵入してくることが多いのですから、そこでしっかりと異物を攻撃して身体を守ります。

免疫細胞は腸で働くだけでなく、全身に回って細菌やウイルスを攻撃します。まさに、腸は身体全体を守る免疫システムの指令塔なのです。この大切な働きをしているシステムに支障が生じるとアレルギーや自己免疫疾患などの病気になります。ですから、腸を健康に保っておくことは身体の健康の要なのです。

腸の健康のためには、腸内フローラ(腸内細菌叢)をバランスよく保つことが大切です。腸内フローラという名前は、腸内細菌を顕微鏡で観察するとまるでお花畑のように見えることからつけられたそうです。

腸内細菌には3種類あると言われています。善玉菌、悪玉菌、日和見菌です。合わせて1キロ以上もの重さになるほどたくさんの細菌が生息していることになります。

これらの菌の名付け親であり、腸内細菌研究の第一人者である光岡知足先生は、

「ヒトの健康維持には、生涯にわたりビフィズス菌が優勢菌であることが重要である。ヒトの腸内細菌の中では、同じ善玉菌でもビフィズス菌のほうが乳酸桿菌よりも数が多く、重要な働きをしている」

とおっしゃっています。
この説に従って、腸内環境を改善すれば健康レベルがアップするのです。

善玉菌、悪玉菌、日和見菌について

光岡先生の御著書『人の健康は腸内細菌で決まる!』から、腸内細菌についての説明をご紹介します。

善玉菌

善玉菌には、ビフィズス菌、乳酸桿菌、腸球菌などの乳酸菌群があり、ビフィズス菌が優位となっています。

善玉菌の役割は、
① 病原菌が腸内に侵入するのを阻止する
② 悪玉菌の増殖を抑えて腸内の増殖を防ぐ
③ 腸の運動を促して便秘を防ぐ
④ 免疫機能を刺激して生体調整のために働く
とあります。
善玉菌が多ければ、ビタミンの合成、消化吸収の補助、病原菌の感染防御、免疫機能の刺激がスムーズに行われます。
善玉菌は腸内細菌の約20%を占めています。これよりも悪玉菌が多くならない状態を保たなければいけません。ですが、この腸内フローラの状態には個人差があります。年齢とともに、善玉菌の割合は減るのですが、同年代の人であっても、善玉菌が多い人と少ない人がいます。食事内容やストレスの状態、生活環境などが大きく関わってくるためです。

悪玉菌

悪玉菌には、ウェルシュ菌、大腸菌、ブドウ球菌、緑膿菌などの腐敗菌群を指します。
大腸菌はビタミン合成や感染症の防御にも働くことがあるが、数が増えすぎると腸内のタンパク質を腐敗させてアンモニア、硫化水素、アミン、フェノールなどの有害物質、発がん性物質を産生します。

便秘や下痢、肝臓障害、動脈硬化、高血圧、がんなどの生活習慣病、自己免疫性疾患、免疫抑制、発育障害、肌荒れ、老化の原因となります。また、病原性を持つ腸内細菌は、抗生剤、ステロイドホルモン、免疫抑制剤、放射線治療、大手術、老化によって優位となり、各種感染症をはじめ、臓器の炎症(膀胱炎、腎炎、腹膜炎など)、敗血症の原因となります。実際にがん患者の便を調べると、悪玉菌が増えていることが多いそうです。

悪玉菌が優勢になると、便やおならが臭くなります。おならや便の匂いで腸の健康度を自己診断することができます。悪玉菌を増やさないようにするためには食生活に気をつけることが必要です。

日和見菌

 日和見菌は、善玉菌、悪玉菌のどちらでもない菌であり、バクテロイデス、ユウバクテリウム、嫌気性細菌などがあります。これらの日和見菌は、悪玉菌が増殖すると、悪玉菌のような働きをするようになり、逆に悪玉菌が減ると大人しくなります。つまり、悪玉菌と同調して働くのです。腸内フローラの中での割合は日和見菌が一番多くなっています。

病気やストレス、老化などによって免疫力が低下すると、本来は大人しい日和見菌が病原菌となって敗血症、腎炎、膀胱炎などを引き起こすことがあります。これを日和見感染と呼びます。
このようなことにならないように、腸内フローラのバランスを整えて免疫力を高めることが大切です。

腸内細菌の年齢による変化

腸内細菌は年齢によって変化するということが光岡先生の研究で明らかとなりました。善玉菌、悪玉菌、日和見菌の割合が変化するのです。

赤ちゃんのときは善玉菌であるビフィズス菌が最も多く、徐々に減少するものの、大人になってからもビフィズス菌優勢が続きます。その後、中年期以降にビフィズス菌は徐々に減少していきます。

悪玉菌は、出生直後に多くなりますが、すぐに減少して、離乳以降横ばいとなります。健康であれば、善玉菌を上回ることはありません。悪玉菌は中年期以降に増え始め、老年期になると善玉菌よりも多くなることもあります。若い人でもストレスが多い不健康な生活をしていると悪玉菌が優位となってしまうこともあります。

このような逆転を防ぐために、生涯を通じて善玉菌を増やす生活を心がける必要があるのです。

赤ちゃんの腸内細菌と母乳保育

母乳で育つ赤ちゃんと粉ミルクで育つ赤ちゃんの腸内細菌を比較すると、母乳保育児の方がビフィズス菌が多くなります。粉ミルクで育つ赤ちゃんはビフィズス菌が少なく、悪玉菌の数が10倍上検出されるそうです。

健やかな腸内フローラを作り上げるために

腸内細菌を健康なバランスに保つためにはいろいろな工夫が必要です。
プロバイオティクスの摂取については、こちらをご覧ください。私はフジッコの善玉菌のチカラとミヤリ酸をお勧めしています。

肉食と食物繊維

食生活、生活習慣が腸内細菌に影響を与えることがわかっています。

まず食事についてですが、肉食は悪玉菌を増やす原因となります。栄養源として高たんぱく質、鉄をたくさん含むという観点からは肉食をすすめていますが、腸内細菌にとっては肉は悪玉菌(ウェルシュ菌や大腸菌)のえさとなるため、あまり大量に摂ることはおすすめはできません。

肉類は毎日続けて食べるのではなく、1日置きにするなどして、腸内細菌のバランスを崩さないようにしましょう。そして、食物繊維をしっかりとり、糖質を避けてください。

ヨーグルトの摂取

乳酸菌を摂るにはヨーグルトを食べる、という方が多いと思います。実はヨーグルトに含まれている乳酸菌は胃を通過するときにほとんどが胃酸で死んでしまいます。そのため、空腹時を避けて、できれば夕飯の後に召し上がるのがよいと思います。ヨーグルトは朝食のイメージが強いと思いますが、腸の活動は夜活発になりますので、腸の働きを助けるためには夕食時の方が効果的です。夕飯の後、胃酸も食事で薄くなっているところにヨーグルトを送り込んで頂くのが良いでしょう。

ただし、最近、胃酸で死滅した乳酸菌も腸に届いて生きた乳酸菌と同じ働きを持つことが確認されたそうです。乳酸菌の死骸が腸に届くと、腸の免疫機能を活性化するのです。すると腸の善玉菌が増加するというわけです。これを簡単に、乳酸菌の死骸が善玉菌のえさになると説明していることもあります。胃酸で死んでしまうことはあまり気にしなくてもよいかもしれません。

ヨーグルトに含まれるビフィズス菌だけでなく、ぬか漬け、納豆、キムチのような発酵食品、そしてほかにも善玉菌のえさとなる食物繊維やオリゴ糖も善玉菌の増殖を助けます。

オリゴ糖の摂取

オリゴ糖はぶどう糖、果糖などの単糖類が複数個結合してできた糖類です。腸にはこれを分解するための消化酵素がないため、吸収されず、血糖値も上げません。このため、低カロリーの甘味料として利用されています。さらにオリゴ糖は腸に生息している善玉菌(ビフィズス菌)のえさとなって、これを増やす働きをします。ですから、善玉菌の数を増やして腸内環境を正常に働かせる方法として、オリゴ糖を摂取することが有効だと言われています。

ビフィズス菌が増えると腸が酸性になって、悪玉菌の増殖を防ぎます。そのため、たとえばヨーグルトを食べるときには、腸に到達をする可能性の低い乳酸菌のみを摂取するよりも、オリゴ糖を加えて食べる方が、腸に有効な働きをすると考えられているのです。

抗生剤をのまないことが大切

抗生剤をのむと、せっかく大切にしている腸内細菌のバランスが崩れてしまいます。善玉菌が死んでしまって、悪玉菌や日和見菌が多くなります。このために、抗生剤を飲み続けていると下痢が起きることが多いのです。

抗生剤は本当に必要なときだけのむようにしましょう。日本では医師が抗生剤を風邪や、ちょっとした手術、怪我のときにも簡単に処方する傾向があります。患者の方から抗生剤を要求することさえあります。このために耐性菌が増えるなどの深刻な問題が起きているのです。
 ヨーグルトを食べたり、乳酸飲料をのんだりして善玉菌を増やす努力をしていても、それは抗生剤の服用であっというまに無駄になってしまいます。

抗生剤はできるだけのまないようにしましょう。

腸内細菌層が影響を与えている疾患について

腸内細菌と炎症性腸疾患

潰瘍性大腸炎、クローン病などの炎症性腸疾患の原因には腸内フローラが大きく影響を与えています。プロバイオティクス(宿主に健康に有益な生きた微生物)とプレバイオティクス(特定の内因性腸内細菌の増殖と代謝を刺激する栄養基質)は腸内最近に影響を与え、潰瘍性大腸炎に効果がある可能性があることがわかりました(2)。

また、潰瘍性大腸炎の治療に糞便細菌叢移植が効果的であるという報告がなされています。健康な人の便を病気の人に移植すると症状が緩和されるのです。現在これは臨床試験が行われています(3)。

腸内細菌とうつ、自閉症

腸内細菌と精神疾患との関連についても研究が進んでおり、腸内細菌がストレス応答や精神疾患において影響を与えていることが示されています(4,5)。「脳腸相関brain gut interaction」(脳と腸の間の双方向的な情報伝達)という言葉も出現し(6)、これらの研究分野がトピックスとなっています(7,8)。

今や腸内細菌は,心身症や精神疾患において無視できない存在となりました。試験前になるとお腹をこわすという子供や重大な仕事の前に下痢になる人も多いですが、この過敏性腸症候群も腸内細菌との関連が至適されています。また、精神疾患ではうつ病や自閉症スペクトラム障害(autism spectrum disorder:ASD)に関連した報告が多く出されています。

まだはっきりとしたエビデンスは出ていませんが、これらの患者の腸内細菌においては、悪玉菌が優位となっていることが確認されており(9)また自閉症児に便の腸内細菌移植を行ったところ消化器症状が消失し、自閉症の症状の改善を認めたという報告もあります(10)。現在100人の児童を対象とした臨床試験も行われており、結果が期待されています(11)。

乳酸菌の持つ発酵という力について

 発酵とは、乳酸菌などの微生物によって物質に変化が起きることを言います。その結果、産生された物質が有益なものであれば発酵、有害なものであれば腐敗と呼びます。

乳酸菌の場合、糖を分解し、乳酸を生成します。これを乳酸発酵と呼んでいます。乳酸発酵が起きると、アミノ酸、有機酸、香りの成分などが生成されます。このため、食品の味わいや香り、性状が変化してまったく別のものが出来上がります。例えば牛乳が発酵すればヨーグルトやチーズになりますし、大豆が発酵すればお醤油や味噌、納豆になるというわけです。発酵すると、食品の栄養価が高まったり、味わい深くなったり、保存性が高まったりします。

最近の研究から 腸内細菌が腎機能を保護する

アミノ酸には「L−アミノ酸」と「D-アミノ酸」がありますが、「D—アミノ酸」はタンパク質合成には使われず、重要な生命現象で利用されていることがわかってきました。実はこの「D-アミノ酸」は腸内細菌によって作り出されており、腸内で分泌されている酵素によって調整されています。

金沢大学の研究グループが腎障害のあるマウスで実験したところ、腸内細菌がD−セリンを産生して腎機能を保護する機能があることが判明しました(12)。腸内細菌が作り出す「D-アミノ酸」が腸内環境を維持し、更に腎臓を保護し、免疫システムや病気の成り立ちにも関わっているということです。

この、「D-アミノ酸」は、発酵食品にも多く含まれています。チーズやヨーグルトに加え、納豆、味噌、漬物など、日本の伝統的な発酵食品には多種類のD-アミノ酸が含まれていますので、やはり、健康のためにこれらの発酵食品を日々摂取することは大切ですね。また、「D-アミノ酸」は甘味、まろやかさを増す美味しさの元でもあります。

参考文献

(1)光岡 知足 人の健康は腸内細菌で決まる -善玉菌と悪玉菌を科学する― (知りたい!サイエンス) 光岡知足 2011年 技術評論社
(2) Derikx LA et al. Probiotics and prebiotics in ulcerative colitis. Bet Pract Res Clin Gastroenterol. 30(1):55-71. 2016
(3) Moayyedi P et al.Fecal microbiota transplantation induces remission in patients with active ulcerative colitis in a randomized controlled trial
Gastroenterology, 149:102-9 2015
(4) 功刀 浩 心の病気と腸内細菌.臨床心理学. 15:110-115.2015
(5) 功刀浩.うつ病と腸脳連関.brain and Nerve. 68:641-46.2016
功刀 浩 うつ病・自閉症と腸内細菌叢 腸内細菌学雑誌。32:7-13. 2018
(6)須藤信行 脳機能と腸内細菌叢.腸内細菌学雑誌31:23-32. 2017
(7) Li Q et al. The gut microviota and autism spectrum disorders. Front Cell Neurosci 11:120. 2017
(8) Li Q et al. the microbiota- gut-brain axis and its potential therapeutic role in autism spectrum disorder. Neuroscience. 324:131-139. 2016
(9)Parrache HM et al. Differnce between the gut microflora of children with autistic spectrum disorders and that of healthy children. J Med Microbiol. 54:987-91. 2005
(10) Kang DW et al. Microbiota transfer therapy alters gut ecosystem and improves gastrointestinal and autism symptoms: an open-label study. Microbione. 5:10 2017
(11)Santocchi E et al. Gut to brain interaction in autism spectrum disorders: a randomized controlled trial on the role of probiotics on clinical, biochemical and neurophysiological parameters. BMC Psychiatry. 16:183. 2016
(12)https://insight.jci.org/articles/view/97957
Nakade Y et al.Gut microbiota–derived D-serine protects against acute kidney injury.J Clin Investigation Insight. 2018