- 投稿日
- 2019年4月8日
- 更新日
ヘルスリテラシーを高めるために 医学情報は自分で調べましょう
Health Literacy ヘルスリテラシーを高めましょう!
自分の健康を守るために必要なもの、それは正しい情報を得て、知識を身につけることです。
リテラシーとは、物事を適切に理解、解釈、分籍、記述、表現できる能力です。簡単に言えば、「読み・書き・そろばん」の能力と言うことができるでしょう。
ヘルスリテラシーは、健康に関する情報を自分で収集し理解して、それを健康面での意思決定に活用できる能力です。さらに適切なサービス(治療)を受けるためにも必要なスキルです。
たとえば、血液検査の値の持つ意味や危険度(たばこを吸うと吸わない人に比べて何倍肺がんに罹りやすいか)などの数字の意味を正しく理解することは健康的な生活を送るうえでたいへん重要です。
ヘルスリテラシーを高めるためには、健康情報を正確に理解できるようにするだけではなく、積極的に自分で健康情報に接する機会増やし、活用していくこと、そして自分自身が生活をコントロールしていく能力の向上(エンパワーメントと呼びます)によって、さらに健康度を高めていくことが大切です。
健康情報の多くは高校教育以上のレベルで書かれていることが多いですし、しかも現在は情報が多すぎて何を信じたらよいのかわからない状況です。あふれかえる情報の中から自分にあったものを判断して選び出す能力を身につけて頂きたいと願っています。
ヘルスリテラシーによって健康を維持・増進させる能力が向上し、個人だけでなく、集団、社会全体として健康度が上がることが期待されています。
私の専門とする公衆衛生学においては、社会市民の保健に関する知識・理解・能力を向上させより健康的な生活を送れるようにすることが目的となっています。
ヘルスリテラシーが低いと。。。
医学知識が少ないので
高血圧患者が運動と減量が血圧を下げることを知らずに太る
糖尿病患者が運動と糖質制限について知らず、どんどん悪化する。
たばこを吸う
お酒をたくさん飲む
偏った食事をする
暴力行為の被害にあう
子供を母乳で育てない
小児医療を定期的に受診しない
がん検診を受診しない
子宮頸部がんワクチンを打たない
などなどです。
あなたは何か思い当たることがありますか?
このような人は、健康度が下がります。健康でいるためにはちゃんとした知識を身につけましょう。
間違った医学情報がたくさんあります
現在は、健康情報が氾濫しています。テレビ、新聞、雑誌、インターネット。。。しかも、インターネットの健康情報は誰が責任を持って書いているかが明らかになっていない場合も多く、明らかに誤りの情報を載せているものも多いのです。
それを信じてしまうと、大切な健康を損ねてしまうかもしれません。
例えば、こんな事件を覚えていらっしゃるでしょうか?
白いんげん豆ダイエット法
某テレビ局が放送して話題となったダイエット法です。
白いんげん豆に含まれるたんぱく質の中に有害なものがあり、過熱すれば害がなくなるのですが、番組中で紹介された「白いんげん豆を煎って白米に混ぜて食べる」という調理法では有害な物質が残ってしまうことがあったため、それを試した人が150人以上が食中毒の健康被害にあったという事件です。症状は下痢、嘔吐で30名は入院するほどひどい状態でした。
納豆ダイエットねつ造事件
こちらも某テレビ局の有名番組で放映されました。
この番組では、納豆を食べると中性脂肪が下がるということで、被験者の血液検査データが正常になった、と紹介しました。ところがなんと実際には検査をしていなかったのです。
納豆に関しては、ほかの放送でも問題になったことがわかています。
この手の番組は今でこそ大分世間の目が厳しくなったため少しレベルが上がっているように思いますが、以前はかなり怪しいものが多かったのです。
そのような番組が放映されると健康に良いとして取り扱われた食材が一斉にスーパーから消え去ったものでした。
みのもんた症候群
みのもんた氏が司会を務めていたお昼の番組は主婦に人気でした。その番組で紹介され、身体によいと言われたのは納豆に始まり、チョコレート、バナナ、ココア、いちご、たまねぎ、水2リットル。。。毎日これらすべてを食べていると確実に肥満、糖尿病などの病気になるのです。
実際、内科の先生たちが患者さんがその番組の信者になっていて、とんでもない食生活を送っていることがよくあると話していました。
番組の情報を信じて実行することを「みのもんた症候群」と呼んでいたほどです。アメリカでは、このように食べ物や栄養が健康に与える影響を過大に評価して熱狂的に信じ込むことをフードファディズム(Food faddism)と呼んでいます。
みのもんた症候群に陥って、毎日2リットル水を飲んでいた高齢女性が最終的に腎不全になってしまったとみのもんた氏を訴えるという事件もありました。
このような場合、責任は誰にあるのか、明らかにすることは難しいのですが、健康を害してしまうのは自分自身です。
ヘルスリテラシーを高めて、正しい健康行動をとれるようにしましょう。
これだけで良い、という食品はありません
簡単に言うと、ほとんどの場合、「これだけ食品」はお勧めできません。
単一の食品だけで健康になれるというのは間違っています。
納豆、りんご、バナナ、いちご、ココア、たまねぎ、ごま、味噌汁、海藻、ナッツ、黒豆、トマトジュース、さばの水煮缶。。。
どんなに優れている食品であったとしても、
「過ぎたるはなお及ばざるがごとし」です。
βカロチンが肺がんの原因となる?
自分で情報をしっかり見極めなければいけない一つの例として、有名なβカロチンのご紹介をしておきましょう。
これについては、今でもかなりネット上の情報が入り乱れ、専門家であっても不確かな情報を発信している傾向があります。
βカロチンは緑黄色野菜にたくさん含まれています。体内に入るとビタミンAに変換されます。そして、今までに多くの研究が行われ、次のことがわかっていました。
緑黄色野菜を多く摂る人は肺がんが少ない
VitAは抗酸化作用により、発がん防止する
βカロテンの血中濃度が高い人は肺がんの発生率が低い
この事実はすべて科学的根拠に基づいたものでしたから、当然、
「サプリメントでβカロチンをとったら肺がんが予防できるだろう」、
という仮説が専門家によって立てられたのです。
そして、1980年代、米国とフィンランドで大規模なβカロテンによる肺がん予防研究が開始されました。
これらの結果はどのようなものだったのでしょうか?
なんと、
予想とは全く逆の結果に、研究者たちは愕然としました。
なんと、
肺がん発生率は、βカロテンを飲んだ人で増加。
特に、喫煙歴がある人では20~30%肺がん発生が増加。
という結果となりました。
この結果を受けて、研究はすぐに中止となりました。
この、嘘のような本当の話は専門家の間では有名な話ですが、一般の方にはあまり知られていません。けれども、βカロチンが肺がんのリスクを上げるというのは、喫煙者およびアスベストの曝露者においてという条件がついています。
この情報を取り除いて、
「βカロチンが肺がんを引き起こす」
というセンセーショナルな事実だけが一人歩きしてしまったのです。
そして、その後、日本における疫学研究において検討が行われました。
2018年に結果が論文発表されています(1)。
これによると、日本人男性で喫煙者である場合には、レチノールの摂取が肺小細胞がんの発症リスクを上げる可能性があることがわかりましたが、喫煙者でない場合、また女性ではそのような関係は認めていません。
そもそも喫煙者では肺がんのリスクが大幅に上がるわけですから、レチノールが喫煙者においてどれだけ肺がんのリスクを上昇させているかはわかりません。
正しい医学情報を得るために
インターネットでは、しばしば情報の切り取りが行われています。大切な情報のすべてが伝えられているのではなく、部分的に伝えられているため、本質が見えなくなってしまうのです。とくにネットでは、ほんの一部を切り取ってそれがすべて、真実であるような印象を与えることが多いのです。
しかも、最新の情報もどんどん書き換えられて古くなります。
何を参考にして、何を信じるのかは自分の責任ということになります。
間違った情報を信じて健康被害にあったとしても、誰も助けてはくれません。
医学においては、科学的根拠に基づいた情報をしっかり得るのが大切なのですが、
科学は日進月歩で進歩します。
私が医学部で学んでいたときに、授業で習ったこと、教科書に載っていたことが今でも正しいわけではありません。
権威のある雑誌に論文が掲載されたからといって、それが正しいとも限りません。
Natureという雑誌は、話題性、斬新なアイデアを掲載する傾向があり、最高峰の雑誌であるにも関わらず、論文の撤回率(後で虚偽などがあったという理由で撤回される)が高いのです。有名なScienceという雑誌も同様です。
世の中を賑わせている研究者の不正、かのSTAP細胞だって、Natureに掲載されましたが、現在となってはほぼ誤りであったであろうという見解になっています。アメリカで特許がとられており、本当のところはまだわかりませんが。。。。
そして、余談ですが、世界でももっとも論文撤回率が高いのは日本人研究者だと言われています。。。日本人として恥ずべきことであると考えます。現在は過去からのボーナス期間で日本人がノーベル賞を続けて頂いている幸せな状態ですが、今後は難しくなってくることでしょう。現在の若者は海外に留学する人がとても少なくなっていると言われています。
若い人にはもっと世界に出て行ってもらいたいと思っています。
科学の世界では、現在正しいと言われることが将来もずっと正しいとは限りません。今はベストと言われる健康法が将来は健康被害の原因となる、なんてこともあるわけです。
では何を信じたらよいのでしょうか?
常に自分で出来る限りの新しい情報を集め、多角的に判断をして、自分が信じるところに従う、というのが答えでしょうか。
または、信じることができる人に相談する、というのもよいかもしれません。
私はこのサイトで、自分が信じられるものをあなたが見つけることができるようなお手伝いができたらと願っています。
PUBMEDを利用しましょう
医学情報は現在ネットなどで簡単に手に入りますが、信頼性については様々なので注意しなければいけません。
サイトがどのようなものなのか、きちんと署名して書かれている記事なのか、公的な機関のサイトなのか、それとも営利目的の会社のものなのかなどによっても相当内容が変わってきます。
公的な機関のサイトは信頼性が高いと思いますが、署名もない個人のブログに書かれている内容などには時に大きな間違いが書かれていることがあり、びっくりしていまうほどです。こういう記事には注意が必要です。
信頼のおける情報、という点からいえば医学論文を読むという方法があります。
すべての医学論文はPubMedというサイトで検索し、抄録まではすべての人が読むことができます。中には無料で全文が読めるようになっているものもあります。最近はすぐにGoogle翻訳にかけられますから英語が苦手な人でも何が書いてあるかおおよそのところはつかむことができます。
最新の医学情報を自分自身で確認することができますから、ぜひ一度興味のある分野について調べてみてください。どんな研究が行われていて、どのような結果が得られているか、どれだけ多くの論文が出ているかということが一瞬でわかります。
多くの研究をみて、そしてどうするのか。
これも難しいところです。
たくさんの研究が同じことを言っているのであれば、それは正しいと思います。
研究の質も重要です。少ない症例をもとにものを言っているのと、数百人、数千人、中には数万人以上の対象者を集めて行われている研究もあります。
専門的な詳しい話は難しくなってしまいますから省きますが、大人数を、何年も長い期間追いかけて病気の発症についてみている、あるいは治療経過を観察している、という研究は信頼性が高いのです。
また、最近は人が行った研究を集めてきて、それらの結果をまとめて何か結論を出す、という方法も一般的になってきました。
メタアナリシスという方法です。
いずれにしても、一つの研究だけで、それを信じるというのは危険です。
研究分野を広く見渡して、違う研究者が何人も同じことを言っていれば信頼してよさそうでしょうし、1つの研究でも何万人ものデータを長期間集めているならば信頼性の高いデータと言えるでしょう。
是非ご自分で情報を収集紙、判断する能力を身につけて下さい。はじめは難しいかもしれませんが、そのうちに慣れてくるものです。
参考文献
(1)Narita S et al. Dietary consumption of antioxidant vitamins and subsequent lung cancer risk: The Japan Public Health Center-based prospective study. Int J Cancer. 2018 Jun 15;142(12):2441-2460. doi: 10.1002/ijc.31268. Epub 2018 Jan 31.